『Save The All』





「ばっかもん!!」



辺りに怒鳴り声がこだます。


「無断で地獄へ乗り込むとは何事じゃ!ただでさえ緊急時なのじゃぞ!」


怒鳴っているのは護廷十三隊の総隊長・山本元柳斎重國だ。
空座町上空では無断で地獄に侵入し、騒ぎを大きくした一護を始めとするルキア、石田、恋次へのお説教タイムの真っ最中だった。

「黒崎一護!特にお主はまた暴走するかもわからない身でよく再び侵入ししたもんじゃな!」
「はいすいません今度から気をつけます」
「棒読みで返事をするな!本当に申し訳ないと思っておるのか!?阿散井副隊長が強制的に現世にお主をおくらなければどうなっておったと思っておる!?それ以前に阿散井恋次!朽木ルキア!そして石田雨竜!お主らも何故止めに入らなかった!?」
「そりゃ無理っすよ総隊長!総隊長は一護の完全虚化見たことないからそういうこと言えるかも知れないっすけど…」
「何のためにお主らを派遣したと思っとるんじゃ!あれほど黒崎一護の手は借りるなと言っただろう!」
「すいません、そこは訂正をお願いしたい。この件に首を突っ込んだのは阿散井君たちじゃなくて黒崎本人です。当然僕や井上さんたちは無関係です。」
「あ!てめぇ石田!自分のこと棚に上げて人のこと…!」
「やめぬか一護!確かに今回貴様は何も知らずに地獄へ乗り込んだだろう?それは事実だ」
「あぁ!?『ならば…我々も一緒に行こう』っつったのは何処の誰だよ!」
「う……それは…」


「失礼します」

一同が騒いでいる中、瞬歩で現れたのは十三番隊隊長・浮竹十四郎だった。


「なんじゃ浮竹…」
「いえ、みんなこう反省しているようですし、そろそろ解放させてあげたらどうでしょう?全員無事に帰ってこれただけでも喜ぶべきですよ」
「しかし…」

「本当っすか!感謝します浮竹隊長!」
「じゃあ僕も、急ぎの用があるので失礼するよ。」
「ま…待てお主ら!」

元柳斎が声を発すると同時に恋次と石田はそれぞれ瞬歩と飛康脚を使ってその場を去った。


そこには一護、ルキア、浮竹、そして固まっている元柳斎だけが残っていた。



「痛恨なりィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!」


元柳斎はただそう叫んだ。



「……ははは…」


その光景に一護は苦笑いしか出来なかった。









「あ、そうだ、朽木。」
「はい?」

ルキアは浮竹に手招きされ、近づく。


「…白哉からの伝言だ。『しばらくは現世で気を晴らせ』だそうだ。まぁ、気晴らししろってことだろう。」

浮竹は一護に聞こえないように小声で言う。

「気晴らし?」

ルキアもつられて小声になる。

「白哉なりの優しさだろう。今回あまりゆっくりできてないんじゃないか?」

浮竹はチラッと一護を見た。
ルキアも一護を見る。


目が合った。


「いい兄を持ったな。」
「な…///」

ルキアは微かに頬を赤らめた。


白哉がしたいことは分かった。
一護とゆっくりしてこい、ということなんだろう。


「じゃ、俺は仕事があるから。じゃあな。」
「あ!浮竹隊長!」

浮竹はそれだけ言うと瞬歩で去っていった。
いつの間にか元柳斎もいなくなっていた。


その場には一護とルキアだけになった。



「あの…ルキア?」
「な…何だ!?」


ルキアは急に声を掛けられ、驚いたようにふり返る。

「遊子たちのことも心配だし…俺も帰ろうかと…」
「ダメだ!!」

一護の声はルキアの声にかき消された。


「…は?」
「いや…その…とにかく私についてこい!!」
「あぁ?何だよそれ?」
「いいから来い!」
「ちょ…何だってんだよぉ!?」


ルキアは強引に一護の手をつかみ、その場から離れた。








「石田くん!」


一方、そのころ死神たちが用意したテント付近で織姫は雨竜を見つけ呼び止める。


「あ、井上さん。」
「うん、石田くんは戦いとかで何処も怪我してない?」
「僕は大丈夫だよ。どちらかというと後半はあまり戦ってもいないからね。」
「そっか…」


織姫は安心したように雨竜に微笑む。


「井上さんも大変だったね。茶渡君や黒崎の妹たちの治療、結構体力使ったんじゃないのかい?」
「ううん、私は大丈夫。私は今回、戦力としてあまり役に立てなかったもん。」


今回織姫は戦いに一切関わらなかった。
彼女にとってそれはとても未練深いことだったのだろう。

「そんなことないさ。治療だって戦力に必要な大切な役目だ。今回、井上さんがいなかったら茶渡君も黒崎の妹も助けられなかったさ。」

雨竜はそんな織姫の心境を読んでか、優しく励ます。


「…うん、そうだね。ありがとう石田くん。」
「いや…僕にはこれぐらいのことしか言えないよ。」

織姫の笑顔を見た雨竜は若干目線をそらしながら言った。
どうも素直になれないらしい。



「そういえば!黒崎くんは?」
「ああ…黒崎は多分…」
「…?」


雨竜はどうやら霊圧を探っているらしい。
織姫も霊圧を探る。


その時、はっきり分かった。


一護の霊圧の近くにもう一つ霊圧がある。










「…朽木さん……だね」

織姫は呟いた。
ただ静かに…


「井上さん…まさかまだ黒崎のこと…」
「ち…違うよ石田くん!黒崎くんは仲間として好きだよ?でも今は石田くんの方が……」


織姫は半分恥ずかしく、そして半分悲しいという曖昧な気持ちで話し続ける。

「その…実は石田くんたちが地獄にいるとき…思わず黒崎くんの背中に抱きついちゃったんだ…でもそんなつもりはないの!ただ…仲間を失いたくなくて…ただ…無事でいてほしくて…」


織姫の顔がだんだんと歪んでくる。
今にも泣き出したいぐらいだった。


「私…本当に最低だよね…黒崎くんや朽木さんのこと知っておきながら…それに…石田くんにも迷惑かけちゃう…」


雨竜には織姫の言葉の意味が通じた。
彼女はただ単に¨仲間として¨一護のことを想っている。
それはルキアにむけても同じ…


「本当に…朽木さんにも失礼だよ…私…最悪だよ…!」
「井上さん、自分のことを悪く思わないでくれ」
「…え?」
「井上さんが¨仲間として¨黒崎のことが好きなのは僕も黒崎も朽木さんもよく分かってるさ。それにそんなことじゃ黒崎も気にしちゃいないよ」

雨竜は織姫に優しく自分が思うことをそのまま告げる。


「…井上さんには…僕がいるよ」


ふと呟いた雨竜の言葉は織姫の心を優しく撫で下ろす。



「…うん、そうだね。ありがとう、石田くん」



織姫は彼の言葉の感謝しつつ、微笑んだ。










空座町の河川敷。


一護の隣をルキアが歩いている。
特に会話はない。



「…………」


一護を連れ出して来たのは良いが特に用事があるわけでも話があるわけでもなかった。


ルキアはただ、白哉がせっかくくれたチャンスを逃したくはなかったのだ。


「……一護!!」

自分が呼び出しておきながら何もしないのも不自然だと思い、ルキアは沈黙を破った。



「…その…先ほどはすまなかったな…」
「あ?何だよ?」
「貴様がいなければ、私は鎖に囚われたままだった…」
「…何だ…そのことかよ…」


一護は足を止め、空を見上げた。

「礼なんて言われることしてねぇよ…俺はお前たちを助けに行きたかったから行っただけだ…それに、俺がもっと強ければお前たちが捕まることもなかったし、遊子だって…」


一護はどこか遠くに視点をおく。
ルキアはそんな一護の顔を見上げる。


「しかし…遊子は助かっただろう…?」

ルキアが一護の前へ歩み出る。


「私たちも助かった…あのコクトーも貴様が助けたよいなものではないか…」
「コクトーを助けた?俺が?」
「そうだろう…あいつは憎しみに囚われていた…その憎しみをたち切ったのは貴様だ」
「…ただ…俺は人間として…兄としてあいつを許せなかっただけだ…」


一護はそれだけ言うと、前に居るルキアと向かい合うように立つ。


「お前とこうしてゆっくりするのも久しぶりだな…」


今、まさに自分が思っていることを言われたルキアは多少驚いたように目を見開いた。

そしてすぐにゆっくりと瞼を閉じる。


「今、私たちがここにいるだけでも…幸せなことだ…」
「…そうだな」


一護はそっとルキアの肩に手をかける。


ゆっくり自分の方へ引き寄せ、優しくルキアを抱きしめる…











「……い…一護…!?」


いきなり抱きしめられ、ルキアは動揺した。



「……今度こそ…」
「…?」
「今度こそ…お前を護るから…」


抱きしめる腕の力を強くしながら一護が呟く。



「…一護…」



ルキアは一護の胸に体を預ける。





今までの恐怖や絶望を忘れさせてくれるような温もり。


ルキアはしだいに心を洗い流されていく…




















「…ところで一護、一つ訪いたいのだが…」
「あ?何だよ?」


ルキアは下へ向けていた顔を一護の方へ向ける。



「先ほど、私が地獄で生き返った時…貴様……私の裸体を見たな……?」
「………………………………………………………………………………………………………―――」





「…………スケベ」
「なっ!!///ちげぇよ!!」
「何が違うと言うのだ!!はっきり見えておっただろう!?」
「そんな見えてねぇっての!だいたい炎でよく見えなかったし…」
「ほぉおう…つまり貴様は見ようとしていたということか…?」
「だっ…だから……っ!!」


ルキアはフッと鼻で笑い、一護の腕の中から離れた。


「貴様が私の裸体を見るなど早すぎるのだ、たわけ」
「勘違いされるようなこと言うんじゃねぇよ!!」
「相変わらずだな貴様は…」
「ったく、いい雰囲気が台無しじゃねぇかよ!!」
「台無しにしたのはどっちだろうなスケベ」
「スケベスケベ言うんじゃねぇ!!!!////」






平和な空座町に二人の死神の言い合いが響く。













「フフフ…なめてもらっては僕は困るのだよ…予想通り奴は私の存在には気付いていない…」






空座町上空。


黒マントの男が一人、一護とルキアの姿を見下ろしていた。





「知っているかい?一度地獄へ足を踏み入れた者は私の言う事を聞くしか無い・って…」


男が被っていた仮面を脱ぐ。

紫色の髪が風に吹かれる。



「いつまでもイチャつけると思われたら困る…堕としてやろう黒崎一護」



突如、男の後ろから突風が吹く。

男は後ろを振り向く。



そこにそびえ立つ地獄の門。


「……!?しまった…!!」


徐々に開かれていく門…


男の体にはいつの間にか赤い鎖が絡みついている。



「…く…くそぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお」



男は地獄の門へ引きずりこまれていった…













地獄

罪を犯した魂の集まる場所


そこからの脱出は不可能


出ることが出来るのは




罪なき魂のみ








★あとがき★


祝!劇場版BLEACH地獄篇DVD発売記念!!



実はこの話、地獄篇を初日に見に行った後、すぐに衝動的に書いたものです(笑)
でもいつの間にか途中で終わってて…

せっかく書いたのでDVD発売に合わせてUPしようと思い、本日UPしました。

最後に出てきた…朱蓮は本編の扱いがあまりにもひどかったので情けをかけました。(笑)



私は地獄篇好きです。
というかBLEACHが大好きです。
BLEACHをスクリーンで見れたことに感謝します。
そしてこれからもBLEACHを応援し続けます!!
もちろんイチルキも!!




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地獄篇熱やばくて初日見に行った後に書いたのは今でもいい思い出()
そしてその小説完成したのがDVD発売直前なのもいい思い出…;


この小説を区切りにサイト活動を一次休止したのを覚えてます。
受験のためでしたね、懐かしい


受験終わってあまり小説を書く機会がなくなってしまいましたが、またちょくちょく、書いていこうかと思います。
よろしくお願いしますm(_ _)m




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